大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 昭和30年(う)135号 判決

訴訟記録並に原審及び当審で親しく取調べた証拠に基き原判決が原判示第一事実即ち被告人が山形県々議会議員選挙に当選を得る目的をもつて選挙運動者佐々木富吉と共謀の上富吉において昭和三十年四月十五日頃その選挙事務所で丸山満弥に投票取纏並に選挙運動の報酬として金二千円を供与したとの認定につき誤認がないか否かにつき検討するに、原判決は右事実認定の証拠として(一)証人丸山満弥の原審公廷における供述(二)佐々木富吉の検察官に対する昭和三十年五月十九日附供述調書を掲げているが右(一)の中には被告人が佐々木富吉と共謀して金員を供与したとの資料は何等存しない。しかし(二)の中には夫れを肯認しうる供述記載が存在する。即ち同記載によれば被告人は昭和三十年四月十五日余目町の八幡様の祭日の前日十四日午後九時過頃街頭演説から選挙事務所に帰つてきて電話で荒川の丸山某方を呼んで近くの丸山満弥を電話に呼出し間もなく出た満弥に直接「ポスターや推薦葉書等頼まねばならないから明日事務所に来てくれ」と話して電話を切り、自分と渋谷金五郎に「丸山満弥は俺の親類の者だが明日来るからその時ポスター等頼んでくれ」といい「遠い所から来て貰うのだし、その後も来て貰うことがあるだらうから労務賃の外に幾らかやつてくれ」というのでどの位と尋ねたところ被告人は「二枚もやつたら良いだらう」というので二千円やれば良いと思い翌朝満弥が選挙事務所に来たので「これ足代だ又情報等貰わねばならないからこれで宜敷くやつてくれ」というようなことを言つて渋谷を通して金二千円入れた封筒を渡したことが認められるが、被告人の選挙事務所より丸山満弥を電話で呼出した日は昭和三十年四月十三日であることその時刻は午後八時五十六分通話申込、同八時五十七分二秒より九時四分までが通話時間であつたこと、右通話時間頃余目警察署勤務巡査武田久蔵が被告人に所用で選挙事務所のあつた余目駅前の長村嘉右衛門方に来て被告人が街頭演説から帰るのを暫らく待つておりそのうちに帰つてきたので宿の主人が被告人を呼にゆき三、四分して被告人は武田巡査がいた宿の茶の間にやつてきたこと、右街頭演説から帰り武田巡査と面会した時刻は午後九時三十分を過ぎていたこと、前記丸山満弥を電話で呼出して通話した者は渋谷金五郎で被告人は当時未だ街頭演説から帰らなかつたし、同所にいた佐々木富吉にはその電話を渡さなかつたこと等を確認しうるのであるからこれに牴触する佐々木富吉の前記供述部分は措信しえない。なお被告人が右満弥と通話後佐々木富吉や渋谷金五郎に向い、満弥が来たら二千円を労務賃の外にやつてくれと頼んだとの事実は既に前述の情況より否定されなければならない。されば右(二)の証拠は事実認定の資料として採用すべからざるものと断ずべきであるのに、原審は輙くこれを事実認定の資料に供したのは採証法則に違反するものであり之がため事実誤認の違法を冒すに至つたものであるというべきである。叙上説示のとおりで(一)の証拠その他記録に現れた全証拠によつても被告人が佐々木富吉と共謀の上丸山満弥に金員を供与したとの点は之を確認しえないのであるから原判決にはこの点において判決に影響を及ぼすべき事実誤認があるので破棄を免れない。論旨は理由がある。

弁護人等連名の控訴趣意第二点、弁護人Aの同第二(以上孰れも量刑不当の点を除く)及び弁護人Bの控訴趣意について。

しかし原判決第二事実認定の証拠を綜合して考察すれば原判示事実記載のとおり被告人は一、立候補届出前林卯三郎より選挙運動に関する寄附として金五万円を受取りながら立候補届出後直ちに出納責任者にその明細書を提出しなかつた、二、中村忠士から前同様寄附として金三万円を受取りながら法定期間内に所定事項を記載した明細書を出納責任者に提出しなかつた、三、石川孝次郎から前同様寄附として金一万円を受取りながら前同様明細書を提出しなかつた事実を優に認定しうるのであつて記録を精査検討するも原判決にはこの点に関し各所論のような事実誤認の違法は存しない。なお所論は被告人にこの点につき犯意がないとか原判示第二の(一)の金は被告人に対する生活資金の供与であると主張するのであるが右は弁護人独自の見解に基くか或は原審の採用しない証拠に立脚するものであつて採用することは出来ない。次に原判示第二の(一)(二)は公職選挙法第百八十六条第一項の解釈を誤り有罪と認定した違法があるというのであるが(右のうち原判示第二の(一)(二)とあるは第二の(二)(三)の誤記と認める)同条第一項の出納責任者以外の者で公職の候補者のために選挙運動に関する寄附を受けたものとは出納責任者を除く総ての者で斯る寄附を受けたものを指すのであつてその中には候補者は勿論含まれていると解するのが立法の趣旨及び文理に合するものというべきであるから所論は採用しない。各論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 大島雷三 裁判官 兼築義春)

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